【目次】

 〔4.3 分析科学と総合科学〕

 研究者の思考プロセスに着目した二つの互いに逆方向の流れをもつ研究アプローチ、「分析型アプローチ」と「総合型アプローチ」とを定義した( 3.2 節)。その両者は数学でいうところの微分と積分の関係に類似している。「微分型」と「積分型」の科学は、まさに表裏一体の関係と考えらる。しかし両者は思考のプロセスにおいて非常に異なって感じられる。そのことを高校数学での微分・積分に当てはめて考えてみよう。


 微分は間違えないように順を追って行けば、一つの正解にたどり着けるという前提認識がある。もちろんいつでも微分可能だとは限らないが、その場合でも、単に差異を認めることなら比較的簡単である。

 一方、積分の方は、微分して元に戻る関数を捜すという方法をとる。もちろん勘と経験で見つけられる場合もあるが、そもそも見つけられない場合、想像から程遠い関数である場合もある。力づくで数値積分する場合も生じる。また積分の場合はきちっと範囲を絞らないと、積分定数の扱い分だけあいまいになる。

 積分には微分には見られない困難さが伴なうが、それでも積分関数を見つける努力に見合う喜びもある。分析型のアプローチをしていた研究者が、総合型のアプローチをとる必要が生じたときに、非常に困難さが伴う場合がある。どのような場合かというと、自分のよって立つ足場を再構築する必要性が生じてきた場合である。

 これは、コペルニクス、ガリレオ時代の人々が、太陽が東から西へ動くのを見て、地球が自転しながら太陽の周りを回っている、と推論することの困難さに似ている。言い換えると、他人の間違いを見つけたときに、間違いであると認識した自分の認知プロセスを逆に疑って、その判断のよりどころとしている自分の足場、枠組み、前提などを再検討することの困難さであるといえる。

 これを、『思考プロセスのコペルニクス的転回』とよぶ。


  〔4.2 アプローチの違いによる相打ち型議論〕
  〔4.3 分析科学と総合科学〕
【5.未来に向けて − 2つの可能な選択肢 −】
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