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【5.未来に向けて − 2つの可能な選択肢 −】

 前章までは、「科学」は、成長・発展していくものである、という「前提」で捉えてきた。もちろん、そうでない捉え方も可能である。

 〔5.1 一つ目の選択肢〕

 一つ目の選択肢は、科学を微分型の「分析科学」だけに限定し、あいまいさ(可能性の幅)が残る積分型の「総合科学」を科学とは認めない場合である。そして科学の扱える範囲を限定し、扱える範囲内での記述をより正確に、より詳細に表現していく方法である。

 ただしこの場合でも、人間の未知なるものに対する好奇心、探究心はなくならないであろう。そして好奇心強き若者たちは、すでに正確に記述されうる科学からの興味は薄れていくであろう。そして若者の科学離れは、ますます促進するであろう。

 若者の未知のものへの探究心は、科学とよばれる分野とは異なるものに注がれ、その分野は独自に発展していくであろう。その分野が何なのか、それがまだ存在しない新しい名前でよばれるのか、あるいは今ある言葉にその概念を含ませてよばれるのか、それはまだ分からない。ただ確実に言えることは、それが単に「科学」とはよばれない、というだけのことである。

 科学は範囲を限定し、正確さを得ることと引き替えに、自らの成長・発展の断念を余儀なくされるであろう。そして、21世紀の学校では、歴史の授業で、20世紀に栄えた最大の「宗教」として、「科学」が語られることになるのかもしれない。

 〔5.2 二つ目の選択肢〕

 もう一つの選択肢は、微分型の「分析科学」と積分型の「総合科学」とが協調し、互いに学び合い、互いに育て合い、互いに補い合う場合である。

 その場合は、科学自体がその扱える対象を広げられる可能性がある。そして自ら自身を成長・発展させていくことにより、より大きくなっていくことであろう。

 さらに、芸術や宗教などの対象に対しても寛容であれば、科学と芸術の融合や、科学と宗教との協調も、不可能なことではないであろう。

 〔5.3 未来に向けて − カオス制御的アプローチ −〕

「過去」と「未来」は、現在を中心にして両者はつながっている。そして未来は、「現在」私たちがどのような選択をするかによって変わってくる。

 21世紀までのこの数年間は、科学において大きな転換期(分岐点)に来ていると推測できる。そのような分岐点においては、私たちがどのような選択をするかによって、「未来」はその選択(初期値)に鋭敏に依存して変わってくる。

 それはちょうど、カオス的な複雑系が、初期値に鋭敏に依存して振る舞う現象と似ている。


  〔4.3 分析科学と総合科学〕
【5.未来に向けて − 2つの可能な選択肢 −】
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