【目次】

 〔3.3 科学における循環型発展モデル〕

 ケプラー以前とケプラー以降の宇宙モデルを見比べて、どちらが優れているかを、現在において判断することは簡単である。しかし当時、その時代における常識をくつがえし、地動説を受け入れるということは、いろんな面で非常にむずかしかったであろう。天動説という前提から、いくつものモデルが提唱された。しかし、その思考の出発点となる前提以前を検証するということ自体が、認識的に難しかったと考えられる。さらに自分の立って観測している地球が動いている、という認識を受け入れることが、心理的にもにさらに宗教的観点からも難しかったと考えらる。

 もし科学者が観測データと一致するという観測的妥当性のあるモデルの段階で満足していたら、記述的妥当性のある新しい理論は生まれていなかったであろう。そして、その記述的妥当性の良い理論の創造こそが、結果的に天文学と物理学の橋渡しをすることになる。そのことが科学の発展を促し、ニュートンの時代へと引き継がれていくのである。

 科学の発展過程において、「分析型アプローチ」と「総合型アプローチ」の両者は、切り離せない相補的関係にあると考えられる。図 2-4 の「工学における循環型発展モデル」から類推して、図 3-9 に、「科学における循環型発展モデル」を提案する。循環の回転方向が、工学の場合とは逆になっている。すなわち意識上の視線の向きに違いはあるが、発展の構造自体は同じであると「推測」できる。またこのモデルは同時に「仮説の立て方」も示している。

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《枠組み》―――>《分析プロセス》―――>《結果》
  ↑         ||        ↓
 《仮説》<―――《総合プロセス》<―――《推測》

    [図 3-9 :科学における循環型発展モデル]
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 「科学の発展」と「工学の発展」との大きな違いは、循環の回転方向に起因した循環のサイクルであると考えられる。つまり科学の発展のサイクルの方が、工学の発展のサイクルと比べて非常に長い、ということである。工学の場合は、具体的な目標を人間の想像力の及ぶ範囲内に設定する。循環のサイクルは、企業などの製品開発では、長期でも5年が普通である。基礎研究の場合でも、目標設定は高々10年である。

<問題認識>
 しかし科学の場合はとくに「目標」を必要としない。工学で目標に相当するものをしいて科学であげれば、前提概念となる「仮説」にあたる。科学では、前提となる仮説を出発点として、一般にいくつものプロセスを順方向にたどる。以前得られた結果を前提として、さらに積み重ねていき、逆戻りせずに一方方向に進んでいく。よって、ある科学の枠組みの範囲内で考察している研究者は、ゆっくりではあるが、少しづづ科学が進歩しているように感じられる。逆にそのことが、研究者が自ら寄って立つ科学の進んでいる方向性を認識することの困難さである、といえる。


<考察>
(1)20世紀における科学は、現象をモデル化し、人間が認識できるよう物事を単純化し、細分化することで、大きな成果を上げてきた。
(2)科学が長い年月を経て、第三段階にさしかかると、それまで、無視されたり、扱う対象から外されていた現象にまで目が届くようになる。
(3)過去、ふるい落とされた仮説が、別の枠組みで再検証されてくるのも科学の発展前夜で見られる現象である。
(4)最近では、コミュニケーションの道具が発達し、異なる枠組みで研究してきた人たちの交流や意見交換が容易に行なわれるようなってきた。


<結果と予測>
 このような状況下では、それまで表面化しなかった認識のずれが表面化してくる。他の社会現象などがきっかけとなり、何かがおかしい、という共通の問題認識が生まれてくる。そして、それまでの前提認識に対する見直し、すなわち再認識の気運が高まってくる。

 その結果、時代を越えて、歴史的な時間をさかのぼって枠組みの再構成がおこなわれるための環境条件が揃ってくる。そしてある新しい科学の枠組みの再創造が行なわれる[4]。その新旧の枠組みの擦り合わせがおこなわれ、新しい科学概念が'再認識'のプロセスを経て受け入れられる、という形で科学が発展していくと'予測'することができる。


  〔3.2 科学の発展段階における枠組みの再構成〕
  〔3.3 科学における循環型発展モデル〕
【4.科学の発展に伴う認識上の困難問題】
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