【目次】

 〔2.2 思考プロセスの方向性から見た科学者と工学者〕

 前節 2.1 で考察したように、工学系の研究者(工学者)と理学系の研究者(狭義の科学者)とで大きな違いは、研究の動機と目標の持ち方にあるのではないかと思われる。その点を踏まえ、つぎに研究者の思考のプロセスの方向性について考えてみよう。

 まず実験手順など物理的なプロセス(物理的な順序)としては、図 2-1 のように、工学者も科学者の場合と同じ方向を向いている(図 2-1 で右向き)。では次に、思考プロセスの流れ、すなわち物事をどの順番で考えるか、という研究者の思考順序について考えてみる。

 工学者の頭の中には、まず「目標となる(望ましい)結果」が先にある。それを実現させるためのプロセスを選択し、プロセスに与える条件を探し出すというアプローチをとる。よって、工学者の思考のプロセスに視点をおいて意識の流れを見てみると、'目標'から出発し'条件'の方向に(意識上における)視線が向いていることになる。それを表現すると図 2-2 のようになる。

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《条件》<―――《思考プロセス》<――― 《目標》

        
    [図 2-2 :工学における思考プロセスの流れ図]
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 科学者が、仮説から結果を導くプロセスを順にたどるとすれば、工学者は科学のプロセスを逆にたどって目標(結果)から条件(仮説)を探すという思考をおこなうと考えられる。さらに工学では、'条件'を求めることが最終目標ではなく、条件群をもとにした'設計図'から、生産のプロセスを経て'目的物/状態'を得るまでが一連の流れになる。よって、生産のプロセスに視点をおくと、流れは図 2-3 のようになる。

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《設計図》―――>《生産プロセス》―――>《目的物/状態》
        

    [図 2-3 :工学のおける生産プロセスの流れ図]
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 図 2-2 と図 2-3 を重ねて書くと、次のような循環系の流れが構成される。

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 《条件》<―――《思考プロセス》<――― 《目標》
  ↓         ||         ↑
《設計図》―――>《生産プロセス》―――>《目的物/状態》


    [図 2-4 :工学における循環型発展モデル]
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 ここで図 2-4 の矢印の方向は、研究者の(意識上における)視線の向きと考えることができる。そして、この循環系は、目標とおりの目的物/状態が作られる場合の典型的なパターンで、工学が発展するときの「循環型発展モデル」といえる。


  〔2.1 科学と工学の構造上の違い〕
  〔2.2 思考プロセスの方向性から見た科学者と工学者〕
  〔2.3 科学と工学の狭間で〕
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