【目次】

【2.工学の構造と特徴】

 科学と工学とは、よく車の両輪に例えられる。現在では工学も科学の一部であるという捉え方をされることも多いが、ここでは特に工学の特徴を取り出して検証してみる。

 〔2.1 科学と工学の構造上の違い〕

 科学の場合は、ある現象の原因究明や理論構築などをしたい、という動機で研究を進めることが多い。一方工学の場合は、どちらかというと具体的な「目的」や「目標」や先にあり、それを実現させるための方法や条件を探すという方向で研究が進められる。


 たとえば、太陽電池を例にとって考えてみよう。工学的研究者が、なぜ太陽電池を研究開発したいのかというと、それはクリーンエネルギーを得るためである、というような目的がまず先にある。そして、その目的より、具体的実現に向け、現状認識から目標を定める。

 具体的には、太陽電池をエネルギー源にするには変換効率が低いし、生産コストが高いので、エネルギーの代替えにはまだまだ問題があるという現状認識があったとする。そこで、変換効率を従来型のものよりも向上させたいという目標をたてたり、生産コストを下げるという目標を立てて、基礎研究や開発研究をおこなっていく。

 つぎの問題点として、太陽電池発電には広い面積が必要であり、日本のように地価の高いところでは、それで電力を得るには無理がある、という前提認識があった場合は、家庭の屋根瓦を太陽電池でつくって家庭の屋根を発電所にしようという発想が生まれる。

 また高い初期投資をしてまで太陽電池の屋根瓦を購入する人はいない、という懸念が生まれば、国による援助制度の導入を推進したり、太陽電池発電による昼間の余剰電力を電力会社に売ることができる制度化を導入したりして目的を達成させるような努力をしていく。


 このように工学では、'目的'が先にあり、それに向けて具体的に研究の目標を絞り、そしてそのための方法(プロセス)を選択し、改良・改善をかさねながらよりよい'条件'を探す、という努力がなされる。

 そして、その目標や目的を達成させるための道具として、科学が利用される。工学における実験とは、各種パラメータを変えながら、よりよい条件をみつけるという努力の繰り返しである、と捉えられる。

 図 2-1 に工学の構造を科学の構造と比較して表現する。実験手順は科学の方法論、すなわち科学のプロセスをそのまま応用する。しかし科学の'仮説'と'結果'にあたる部分は、工学では'条件'と'目標'にあたると考えられる。

―――――――――――――――――――――――――――――
科学:
 《仮説》 ―――>《プロセス》 ―――>《結果》
   ↓         ↓         ↓

工学:
 《条件1》―――>《プロセス1》―――\ 
                    \
 《条件2》―――>《プロセス2》―――>《目標》(《目的》)
                    /
 《条件3》―――>《プロセス3》―――/


    [図 2-1 :科学的アプローチの工学的応用]
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 別の例としてソフトウェアを開発する場合を考えてみよう。ソフトウェアであるプログラムを作る場合、何のプログラムを作るかという目的があり、その具体的イメージが先にある。どのプログラミング手法を選ぶか、どのプログラミング言語を選ぶか、というのがプロセスの選択にあたる。またその手法を使ってどのようにコーディングするかというのが条件を探すことに相当する。目標を達成するという制約条件はあるが、条件やプロセスの選び方の自由度は、任意に近いぐらい大きい。それが工学の大きな特徴である。


 さて、工学はどのような構造を持っているか、ということをもう一度まとめてみよう。図 2-1 をみると「工学の構造」は、目標に向かうための条件を足し合わせるような構造をしている、と見ることができる。


【1.科学の構造と特徴】
【2.工学の構造と特徴】
  〔2.1 科学と工学の構造上の違い〕
  〔2.2 思考プロセスの方向性から見た科学者と工学者〕
【目次】