【目次】

【1.科学の構造と特徴】

 〔1.1 科学の基本構造モデル〕

まず、科学の構造を単純化し、図 1-1 のようなモデルで捉えてみる。

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《仮説》―――>《プロセス》―――>《結果》

    [図 1-1 :科学の基本構造モデル]
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 《仮説》とは、ある現象を観察し、法則性や共通性から推測される「仮定」の部分である。「問題提起」や検証される前の「モデル」などもここでは「仮説」に含んで考える。すなわち、この図1-1のモデル自体も仮説であり、その検証は本論文全体を通しておこなう。

 《プロセス》とは、仮説に対して検証や実験をしたりするときの手順の部分である。ここでは「思考実験」などの論理的な思考や「考察」もこのプロセスに含んで考える。いわゆる「科学的にいって何々」という場合の「科学的」が指す対象が、このプロセスの部分といってよい。

 《結果》とは、「仮説」から出発し「プロセス」によって引き出された、現象、結論、予測などを示す。


 科学は3つの特徴的な部分からなり、それらが一定の流れをもって渾然一体となって構成されていると捉えることができる。もちろん、実際の科学の構造は、このように単純なものではないだろう。このような構造が、並列に重なり合ったり、直列に結合したり、再帰的に入れ子になったりして、一連の科学体系が形成されていると考えるられる。それは、科学が自然科学を中心に成長してきたことと、自然自体がフラクタル性(自己相似性)を帯びていることと無関係ではないだろう。

 〔1.2 科学の特徴と研究者の視点〕

 さて次に、3つの特徴《仮説》、《プロセス》、《結果》の中で、もっとも重要な部分はどこか、という問題を考えてみる。おそらくどの部分を重視しているかは、人によって意見が別れるところであろう。

 科学によって得られた結果を利用したい人や、知識欲が旺盛な人にとっては「結果」が重要であろう。科学に新しい見地をつけ加えたい人や、いつもなぜだろうと問いかけをする人にとっては「仮説」が重要であろう。どれも重要であろうが、やはり、科学を特徴付けている部分として、「プロセス」はもっとも重要な部分と考えられる。なぜなら、もしプロセスがしっかりしたものでり、誰がおこなっても同じ結果が得られるならば、再現性・客観性が良いといえるからである。

 そして、そのプロセス自体は、科学する対象を変えて他の分野に適応しても応用がきく部分であろう。狭義の科学が自然科学を指すといえるように、自然科学におけるプロセスは現在もっとも確立されたものといっても過言ではない。自然科学のプロセスを社会現象に応用しようとする試みが社会科学であり、人類文化に応用しようとする試みが人文科学であると捉えることもできる。

 〔1.3 順プロセスと逆プロセス〕

 もう一つここで重要な関係は、「仮説」と「結果」は常にセットで評価する必要があるということである。プロセスがしっかりしていればいるほど、結果は仮説に大きく依存する。ある現象が、既存の科学の枠組みで説明できないとき、プロセスを逆にたどって仮説の部分を再検証する必要が生じることがある。もちろんその前に、よく現象を観察し対象の認識を深めることがより重要であることは言うまでもない。しかし、多くの人たちによって積み重ねられてきた分野における科学、言い換えると成熟期にある科学体系では、仮説は「前提」条件の中に「暗黙の仮定」として埋め込まれている場合がある。よって、そのことを「認識」すること自体が非常に難しい場合が多い。

 逆にいえば、研究者がある科学の枠組みを選択した時点で、すでにその枠組みの前提条件を暗黙のうちに認めているといえる。このこと自体をまず「再認識」しておく必要がある。


【はじめに】
【1.科学の構造と特徴】
【2.工学の構造と特徴】
【目次】